こんにちは、栄養カウンセラーのちあきです。
夕方、宿題の前で肩を丸めている子どもを見て、つい「もっと気持ちを強く持ちなさい」と言いそうになったこと、ありませんか。私もあります。でも言ったあとで、「そもそも、心を強く持つ材料って、この子の中に足りているのかな」と、ふと立ち止まったんです。
心を穏やかに保って、「私は大丈夫」と自分自身を感じる。その安心を、体の内側から支えてくれている物質があります。今日は、安心・安全のホルモンと呼ばれる「セロトニン」のお話をさせてください。
前回は、人とのつながりで生まれるオキシトシンのお話をしました。今日はその隣にある、自分の内側を落ち着かせてくれるホルモンのお話です。
「安心」をつくるセロトニンは、実は腸で育っている
セロトニンは、分かりやすく言うと、安心・安全に関わる物質なんです。脳の中で神経伝達物質として働いていて、気分や不安、ストレスへの反応など、「心の安定」に深く関係しています。
私たちの体には、「さあ動こう、頑張ろう」という時に働く交感神経と、「休もう、リラックスしよう」という時に働く副交感神経があります。この二つを行ったり来たりしながら、私たちは毎日を過ごしているんですね。ずっと頑張り続けることも、ずっと休んでいることもできない。だからこそ、必要な時にアクセルを踏んで、必要な時にちゃんとブレーキをかける。その「調整役」を担ってくれているのが、セロトニンなんです。
そして、私が栄養カウンセラーとしていちばん驚いたのが、このセロトニンの多くが、脳ではなく「腸」にあるということでした。あまりに意外で、思わず院長(夫)に「本当なの?」と確認したくらいです。
体内のセロトニンは、約90%が消化管の粘膜に、8%が血小板に、そして脳の中にあるのは2%ほどと言われています。「心のホルモン」と呼ばれているのに、その大半はお腹にいるんですね。
ただ、ここはきちんとお伝えしておきたいところなのですが、腸で作られたセロトニンが、そのまま脳に届いているわけではありません。脳と血液のあいだには関所のような仕組みがあって、セロトニンはそこを通り抜けられないからです。だから「腸を整えれば脳のセロトニンが増える」という単純な話ではないんですね。
それでも、腸と脳が互いに影響し合っていることは、以前もお伝えしたとおりです。だから、子どもの心が落ち込んでいる時に「気持ちの問題」だけで片づけないこと。そして心を整えたいと思ったら、睡眠は足りているかな、食事はどうかな、体を動かせているかな、お腹の調子はどうかな。そんなふうに、体の視点からも見てあげることが、実はとても大切なんです。
心を整えたいなら、体から。姿勢が心を変えていく
ここで、ちょっと面白い研究の話をさせてください。ザリガニの「戦い」の研究なんです。
オスのザリガニを2匹一緒にすると、優劣を決める争いが起こります。普通なら、体の大きいザリガニが勝つ。ところが、小さいほうのザリガニにセロトニンの作用を加えると、行動が変わるそうなんです。体を縮めるのではなく、ぐっと起こして、自分を大きく見せる姿勢を取る。すると、体格では負けているはずの小さいザリガニのほうが、勝ってしまうことがある、というお話でした。
これって、私たち人間にも通じる気がしませんか。自信がある時、人は自然と胸を張ります。逆に「今日はちょっと自信がないな」という時は、体が小さく丸まってしまう。でも面白いのは、その順番を逆にしてもいいということなんです。心が上を向くのを待つのではなく、先に体を上に向けてあげる。胸を張って、顔を上げるだけで、気持ちのほうが後からついてくることがあるんです。
こういう姿勢は「パワーポーズ」と呼ばれています。ひとつだけ正直に付け加えておくと、この姿勢でホルモンの値まで変わるという当初の報告は、その後の追試では確かめられませんでした。けれど「自分が少し強くなった気がする」という感覚のほうは、繰り返し確かめられているそうです。私にはそれで十分だなと思っています。だから、うちでは落ち込み気味の朝ほど、大げさに伸びをすることにしています。背筋を伸ばして、胸を開いて、顔を上げて、口角も上げて、全部いっしょに上げていく。ほんの10秒、20秒のことなんですけれど、「頭の中で気分を切り替えよう」とするより、体から心に働きかけるほうが、意外とすっと軽くなるんですよね。
そのセロトニン、材料はやっぱりタンパク質
ただ、ここからが栄養カウンセラーとしていちばんお伝えしたいところなんです。
セロトニンは、何もないところから突然湧いてくるわけではありません。作られるためには、ちゃんと「材料」がいるんです。その材料のひとつが、必須アミノ酸のトリプトファン。これは、タンパク質を含む食品から取り入れています。つまり、肉・卵・魚・大豆といったタンパク質を日々の食卓で取っていないと、心を支えるセロトニンまで、なかなか行きわたらないんですね。
しかも体は、生命を維持するほうを最優先します。特に成長期のお子さんや中高生は、体そのものを作るのにたくさんのタンパク質を必要とします。そこにご飯やパンなど炭水化物ばかりが並んでいると、体を保つだけで精一杯で、心のためのホルモンまで手が回らなくなってしまう。「先に、体のほうへ材料が行ってしまう」というわけです。
だから、「もっと前向きに」「胸を張ってごらん」と声をかける前に、その子の中に材料が入っているかな、という視点をひとつ足してあげたいんです。「朝どうしても起きられない」というお子さんも、まずは食事を見直してみる価値があります。心を強くする根性論の前に、心を作る材料を、そっと足してあげる。これが、栄養カウンセラーとしての私のいちばんのお守りです。
今日からできるワンアクション
今日は、ひとつだけ。夜ごはんのお皿に、手のひら1枚分のタンパク質――卵でも、お豆腐でも、焼いた魚でも――が乗っているか、そっと確かめてみませんか。そして落ち込みがちな朝は、親子で一緒に、大きく伸びをひとつ。
食事・睡眠・運動、そして朝の光。どれも耳にタコができるほど言われることかもしれません。でも、その一つひとつが、子どもの「安心」の土台をコツコツ育てているんだと思うと、今日の食卓が、少しだけ愛おしく見えてくるんです。完璧じゃなくて大丈夫。私も、日々のちりつもでやっていきましょうね。
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この記事をお届けした人
ちあき(小森 千明)
元・特別支援学校教諭 | 栄養カウンセラー
── ライフコーディネーターとして、ご家族の食卓と、毎日の選択の隣にいます
特別支援学校の教員でした。教えていたのは、音楽です。言葉にならない声を、聞き取る仕事でした。その聞き取り方を、いちばん近いところで試されたのが、わが子の子育てです。
メロディーは、その人のもの。私が変えるのは、リズムのほう。
小森こどもクリニックの運営統括マネージャーとして、いまも毎日、現場にいます。
弘前大学 教育学部 障害児教育課程卒。特別支援学校教諭一種免許(知的障害・肢体不自由・病弱)、中学校・高校 音楽教諭一種免許。オーソモレキュラー・ニュートリション・エキスパート(ONE)認定。『7つの習慣®』実践会認定ファシリテーター。3児の母。
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ちあき|こどもの栄養カウンセラー×3児の母🌱 @LifeCrescendoC
