この記事は、小児外科専門医・小森広嗣による寄稿です。医師個人の経験と考えとして書いています。
平光源先生の講演会で感じた「理解」と「優しさ」
先日、多くの方に信頼されている精神科医、平光源先生の講演会に参加する機会に恵まれました。
医師として、そして一人の親として、深く心に響く時間でした。
講演の冒頭で語られた「理解」に関するお話が、特に印象に残っています。
私のメモから書きとめると、こんなお話です。自分の“イエス”が、相手の“イエス”とは限らない。自分の“No”が、相手の“No”とも限らない。私たちは皆、それぞれ赤いメガネ、黄色いメガネ、緑のメガネをかけて世界を見ている——。
同じ出来事を見ていても、感じ方や受け取り方は人によってまったく違います。
子育てや日々の生活の中でも、まさにそう感じる場面があります。
それは“間違い”ではなく、“その人にとっての真実”。
相手がどんな色のメガネで世界を見ているのかを知ろうとすること。
そこにこそ、本当の理解と優しさが生まれる――
その言葉に、心がふっと軽くなるのを感じました。
そして一方で、だからこそ完全に理解されることもまた難しいということ。
だからこそ、自分の軸をしっかり持ちながら、
自分自身の人生を「幸福」や「幸せ」で満たしていくストーリーメイキングが大切だというお話も、とても印象に残りました。
人と比べるのではなく、自分の中に物語を描いていく。
その生き方こそが、心の安定と喜びを生むのだと感じました。
相手の「Yes」は自分の「Yes」とは違う
この「YesとNo」のお話の中で、私自身も深く共感したことがあります。
私たちはつい、「良かれと思って伝えること」が、相手にとっても良いことだと思い込みがちです。
けれど、実際にはそれが相手を圧倒してしまうこともあります。
自分の中では“エネルギーを込めて話した”つもりでも、
相手にとっては“押しつけられた”ように感じることがあるのです。
相手が「Yes」と言わないのは、拒否ではなく、
「今は受け取る余裕がない」だけかもしれません。
この感覚を持つことで、相手との関係がずっと優しくなり、
本当の意味での「理解」に近づくと感じました。
「許し」と「軸」──揺れる子どもを見守る親の姿勢
続いて語られたのは、「許し」についてでした。
誰しも、葛藤があることが悪いのではない。そこから自分を知り、相手を知る。そして自分を許し、相手を許す——そう語られました。
子育てにおいて、もし子どもがジェットコースターのように揺れ動く存在だとすれば、
親である自分はメリーゴーランドのように、穏やかに回りながら見守る。
このたとえに深く共感しました。
私たちはつい、相手の揺れに巻き込まれてしまいがちです。
でも、大切なのは「自分の軸」で穏やかに回り続けること。
それが、子どもたちと向き合う毎日や、子育てで、私自身が大切にしている姿勢でもあります。
「厚み」という生きる力──比較ではなく体験から育つもの
そして講演の中で、最も心を打たれたのが「厚み」についてのお話でした。
私なりに書きとめると、こういうお話でした。もともと60の幸せを土台に生きている人が80の幸せを感じても、その振れ幅=感動の“厚み”は20。けれど、−80の不幸を感じていた人が、そこから+80の幸せを知ることができたなら、その“160の厚み”こそが、人を導き、感動を生む。
この言葉には、私自身の人生観と強く重なるものがありました。
人はどうしても「自分が正しいか」「間違っているか」「上か下か」を気にしてしまいます。
しかし、生きるというのは比較ではなく“厚みを育てること”。
最初からうまくできるよりも、「できなかったことができるようになる」ことにこそ、
生きる喜びがあり、心の力が育っていきます。
上を見れば限りなくすごい人がいて、下を見れば自分より苦労の少ない人もいる。
でも、それを比べても何も始まりません。
大事なのは、「自分のペースで厚みを育てていくこと」です。
その厚みがつくほど、人生は深く、面白くなっていきます。
そして、その厚みの中で出会う人・つながる仲間こそが、自分の世界を広げていく存在になる。
それが人とのつながりの本当の豊かさだと思います。
結果ではなく「過程」にこそ感動がある
私たちは、どうしても「結果」を求めがちです。
しかし、結果が手に入ってしまった瞬間、どこか虚しさを感じることはありませんか。
平先生は、まさにそこに人生の面白さの本質があると語られました。
「厚み」とは、どれだけ多くの経験を“大切な人と共に感動に変えていけるか”ということ。
うまくいかないこと、思い通りにいかないことの中にこそ、
人間としての深みと輝きが宿る。
簡単にゴールが決められるサッカーの試合は、誰も何度もプレーしたいとは思わない。だからこそ、人生にも“思い通りにならない時間”が必要なのだ、と。
早く成果を求めることは、
実は“感動のプロセスを体験する機会”を失うことでもあるのだと感じました。
子育てで感じる「できない」「劣っている」気持ちこそ、厚みを育てるチャンス
子育てをしていると、
「うちの子はほかの子より遅いのでは」「自分の育て方が悪いのでは」と
感じることがあるかもしれません。
けれども、それこそが人生の“厚み”を増やすチャンスです。
最初からすべてがうまくできるよりも、
「できなかったことが少しずつできるようになっていく」――
その過程にこそ、本当の感動があります。
上を見ればすごい人がいて、下を見れば苦労の少ない人もいる。
でも、それを比べても仕方がありません。
大事なのは、「自分と子どものペースで厚みを育てていくこと」です。
その人の“今の点”に合わせて少しずつ厚みを作っていく。
その積み重ねが、その人だけの人生の意味を形づくります。
だからこそ、「うまくいかない時間」「できないギャップ」こそが、 親子にとってかけがえのない宝物だと思うのです。
私自身、子どもたちを診てきて、たくさんのご家族と向き合いながら、
この“厚みのある成長”こそが、心を強く、豊かにしていくことを実感しています。
「赤鼻のトナカイ」が教えてくれる弱さの力
そして、先生が最後に語られた「赤鼻のトナカイ」のお話が、とても印象的でした。
まっ赤なお鼻を笑われていたトナカイ。けれど、暗いクリスマスの夜には、その光こそがサンタクロースを導く希望になる。
自分の鼻は劣等感のかたまりだと思っていたけれど、実はそれが、人を喜ばせる力になる——そんなお話でした。
人は誰しも、自分の中に“赤い鼻”のような弱みを持っています。
けれど、見方を変えれば、それは人を照らす光。
まさにその弱さこそが、人の心を動かす力になる。
私自身、子どもたちを診てきて、
ご家族や子どもたちが「弱さ」だと思っていた部分を受け入れ、
それがむしろ家族の絆や希望を育てていく瞬間を、何度も見てきました。
ネガティブな経験が「生きる厚み」をつくる
ネガティブな経験こそが、体験の本当の価値を教えてくれます。
深い谷を知っている人ほど、世界の見え方はまったく変わる。
それは私自身の過去の経験からも、心から言えることです。
だからこそ、うまくいかない現実の中で、
どう生きるか、どう自分の花を咲かせるか。
そこにこそ、“生きる意味”があるのだと思います。
🎁あなたの世界を変える一冊
今回の講演でお話しくださった平光源先生の温かい哲学は、
ご著書『だいじょぶだぁ〜不登校・うつを経験した精神科医の読む薬〜』(英智舎)に、優しく詰まっています。
この本を読むと、まるで平先生が隣で「だいじょぶだー」と言いながら、
そっと背中を押してくれるような気持ちになります。
もし今、子育てや人間関係で「思い通りにいかない」と感じている方がいらしたら、
ぜひ手に取ってみてください。
きっと、あなたの“メガネの色”が少し変わり、
世界が温かく見えるようになると思います。
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この記事を書いた人
小児外科専門医・医学博士 小森広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部を卒業後、東京都立小児総合医療センターなどで小児外科医として豊富な臨床経験を積む。いまも毎日、子どもたちの診療に携わっている。日本小児外科学会認定の小児外科専門医・指導医、医学博士。
