腸と栄養の専門家・小児外科医が解説|同じ風邪でも「治る子・治りにくい子」の差は食事にあった

はじめまして。小児外科専門医の小森広嗣です。

私は小児外科医として、長いあいだ子どもたちのお腹の手術に携わってきました。小児外科というと手術のイメージが強いかもしれませんが、私たちの仕事にはもう一つの柱があります。生まれつき腸にハンディキャップを持って生まれたお子さんが、退院したあとも健やかに育っていけるよう、長期にわたって見守り続けることです。

手術が成功しても、そこから先を力強く生きていくために欠かせないのは、日々の栄養でした。腸の状態を知り、栄養をどう吸収させ、成長の糧にするか。その一点を突き詰めてきたからこそ、私たちは「腸と栄養の専門家」でもあるのです。

そして、その中でずっと解けない問いがありました。
それは、「なぜ、子どもによって“治る力”がこれほど違うのか」ということです。

同じ風邪と診断しても、数日で走り回る子がいる一方で、咳と鼻水が何週間も続き、何度もぶり返す子がいる。同じ手術をしても、驚くほど順調に回復する子と、傷の治りが遅く体力が戻らない子がいる。季節の変わり目に必ず崩れる子と、一年を通してほとんど熱を出さない子がいる。

この違いを、私たちは長いあいだ「体質」「個性」「遺伝」という言葉で説明してきました。しかし、目の前で苦しんでいる子を前に、その言葉で思考を止めてしまってよいのだろうか。その葛藤が、私を「栄養」という上流へ向かわせました。

たどり着いた答えは、拍子抜けするほどシンプルでした。治る力は、日々の食事がつくる「土台」の上に立っている。そして土台は、生まれつき決まっているものではなく、あとから育てられます。

この記事では、その土台の中身を、できるだけ具体的にお伝えします。読み終えたときに「まず、うちはここから」と一つ決められることを目指して書きました。

この記事の要点

・「治りにくさ」は体質だけの話ではなく、栄養という土台の状態として説明できることが多い
・土台は5つある。①お腹(消化)②元気(鉄・ビタミンB群)③安定(血糖)④守り(免疫)⑤成長(材料)
・順番がある。まずお腹。どれだけ良いものを食べても、消化・吸収できなければ体には届かない
・完璧を目指さなくてよい。明日から全部変えるより、今日ひとつ変えるほうがよく効く

第1章:「治る力」は、5つの土台の上に立っている

1-1. 症状を追いかけるのをやめて、その下を見る

熱、咳、湿疹、便秘、イライラ、朝の不調。診察室に持ち込まれるのは、いつも「水面から上に出ているもの」です。けれど水面の下には、それを支える土台があります。

症状だけを抑えても、土台が細いままなら、同じことが季節ごとに繰り返されます。反対に土台が育てば、同じウイルスをもらっても軽く済み、治りも早くなる。私が栄養にこれほど力を入れているのは、水面下は、あとから変えられるからです。

ここでお伝えするのは、私が診察室で毎日使っている見取り図そのものです。難しい検査の話は出てきません。ご家庭で「どこから手をつけるか」を決めるための地図だと思って読んでください。

1-2. 5つの土台と、その順番

土台は、下から順に積み上がっています。この順番に意味があります。

  • ① お腹(消化)——すべての入口。ここが細いと、上の4つに何も届かない
  • ② 元気(エネルギー)——食べたものを力に変える工程。鉄とビタミンB群が働く
  • ③ 安定(血糖)——心と体の波。眠りの深さ、朝の起きやすさに直結する
  • ④ 守り(免疫)——小さな火事を、大きくしない力
  • ⑤ 成長(材料)——体と脳をつくる材料。タンパク質・脂質・鉄・亜鉛

この5つ全体を支えているのが、毎日の食事・睡眠・運動・そして安心感という「大地」です。さらにその下には、生まれる前——お母さんの栄養という層があります(第4章)。

土台が整うと、体の中でセロトニンやドーパミンといった神経の物質、そして各種のホルモンが正しく作られるようになります。やる気、集中、安心、質のよい睡眠。目に見える「元気」は、いつも水面下の結果として現れてきます。

第2章:5つの土台を、ひとつずつ

2-1. ① お腹(消化)──すべての入口

私が必ず最初にお腹を見るのには、はっきりした理由があります。お腹の不調は、それ自体が症状であると同時に、「栄養が届かない原因」でもあるからです。

腸に炎症があったり、消化・吸収の力が落ちていたりすると、どれだけ良い食事をしても、栄養は体の一部になりません。良かれと思って足したものが、通らずに素通りしてしまう。入口が細いところに材料だけ増やしても、渋滞するだけなのです。

これは、何百という子どものお腹を実際に開き、炎症を起こした腸壁の脆さと健康な腸との違いを手で確かめてきたからこそ、私が言い切れることです。栄養の話をする医師は増えましたが、腸を切り、縫い、その後の育ちを何年も追いかけてきた立場から見ると、この一点だけは譲れません。

次のようなサインがあれば、まずお腹から整えます。

  • お腹が張る、ガスがたまりやすい、よくゴロゴロ鳴る
  • 便秘が続いている、または下痢を繰り返す
  • 口の周りや唇が荒れやすい
  • 食が細く、量が食べられない

2-2. ② 元気(エネルギー)──鉄とビタミンB群

食べ物は、口に入れただけでは元気になりません。体の中でエネルギーに変換する工程があり、そこで鉄とビタミンB群が働きます。この2つは、いわば発電所の部品です。

部品が足りないと、食べているのに疲れやすい、集中が続かない、朝が起きられない、といったことが起こります。とくに鉄は、体が急速に大きくなる成長期の子どもと、月経のある女性で不足しやすい栄養素です。

そして近年、私がもっとも注意して見ているのが、この鉄です。鉄は5つの土台のすべてを横断します。エネルギーを作るときも、免疫が働くときも、心を穏やかに保つセロトニンやドーパミンを作るときも、鉄が要ります。「元気がない」「気持ちが落ちやすい」の背景に、静かに関わっていることが少なくありません。

  • 疲れやすい、すぐに「だるい」と言う
  • 集中が続かない、宿題に取りかかれない
  • 甘いものがやめられない
  • 立ちくらみがある、顔色がすぐれない

2-3. ③ 安定(血糖)──心の波は、根性の問題ではない

ジュースやお菓子で血糖値が急に上がると、体はそれを下げようとして、今度は下げすぎてしまいます。この上下の波が、頭痛、イライラ、集中の途切れ、そして眠りの浅さとして表に出ます。

見落とされやすいのが夜間です。眠っているあいだに血糖が下がると、体はそれを立て直すために、アドレナリンをはじめとするホルモンを出します。この立て直しは体を目覚めさせる方向に働くため、夜中に目が覚める、歯ぎしりをする、寝汗をかく、朝に頭が痛い、朝どうしても起きられない、といった形で現れることがあります。

朝起きられない子は、怠けているのではありません。夜のあいだ、体の中で波が起きているのです。この見方に立ってから、私の外来では「朝が弱い」というご相談の景色がずいぶん変わりました。叱る場面が減り、夕食と寝る前の中身を一緒に見直す場面が増えたのです。

2-4. ④ 守り(免疫)──小さな火事を、大きくしない力

優れた免疫とは、強いことではありません。バランスが取れていることです。ウイルスや細菌と戦う攻撃力と、戦いを適切に収める制御力。この2つが揃って初めて、早く治り、こじらせずに済みます。

体の中に小さな炎症がくすぶり続けていると、この制御が効きにくくなります。湿疹が長引く、風邪をひきやすい、アレルギー反応が強く出る——別々に見える出来事が、同じ根を持っていることがあります。

ここに効くのが、油の質、ビタミンD、亜鉛、そして腸内環境です。免疫の細胞は、その多くが腸のまわりに集まっています。免疫の話は、必ずお腹に戻ってくるのです。

2-5. ⑤ 成長(材料)──体と脳をつくる材料

子どもは、毎日体を作り続けています。材料がなければ、作れません。必要なのはタンパク質、良質な脂質、鉄、亜鉛です。

とくに脳は、その約6割が脂質でできています。どんな油を食べているかが、そのまま脳と細胞膜の質になっていく。ここが、次の章につながります。

また、高い熱を出したときや大きな怪我をしたとき、体は筋肉を分解してアミノ酸を取り出し、免疫細胞や傷を治す材料に使います。筋肉は、いざというときの「回復力の貯金」でもあるのです。外でよく遊ぶことが体づくりになるのは、骨や筋肉が育つからだけではありません。

第3章:いまの食卓で、足りなくなっているもの

3-1. 「カロリーは足りているのに、部品が足りない」

現代は、食べ物にあふれた時代です。それでも診察室では、「カロリーは足りているのに、体を修復しウイルスと戦うための“部品”が足りていない」お子さんに、たびたび出会います。これを「質的栄養失調」と呼びます。

車にたとえるなら、ガソリン(カロリー)は満タンなのに、エンジンオイルや精密な部品(ビタミン・ミネラル・良質な脂質)が足りていない状態です。これでは本来の性能が出ませんし、故障(=病気)からの立ち直りも遅れます。爆発的な速さで成長し、常に体を作り替えている子どもにとって、この不足はそのまま「治る力」に響きます。

3-2. 魚の油(n-3系脂肪酸)が、決定的に足りていない

体を構成する約37兆個の細胞は、すべて細胞膜という油の膜に覆われています。この膜の質が、細胞の働きを、そして免疫細胞の働きを左右します。

青魚に多いn-3(オメガスリー)系脂肪酸は、この膜をしなやかに保ち、炎症を適切に鎮める側に働きます。一方、揚げ物や加工食品に多いn-6系脂肪酸は、炎症を進める側に働きます。どちらも必要な油ですが、いまの食卓はn-6に大きく偏っています。このバランスの崩れが、アレルギー反応の強さや、炎症の治まりにくさの一因になっている可能性があります。

3-3. ビタミンDとカルシウム──司令塔と、心の鎮め役

ビタミンDは、免疫の司令塔です。侵入してきた相手と戦うべきか、それとも攻撃を収めるべきかを判断する場面で欠かせません。不足すると、この司令塔が働きにくくなり、感染症にかかりやすくなったり、アレルギー反応が過剰になったりします。屋外で過ごす時間が減った現代では、大人も子どもも不足しやすい栄養素です。

カルシウムは骨の材料であると同時に、神経の高ぶりを鎮める働きを持ちます。体調を崩したときに乱れやすい自律神経を支える意味でも大切です。そして、カルシウムはビタミンDがなければうまく吸収されません。この2つは、いつもセットで考えてください。

3-4. 超加工食品(UPF)と、どう付き合うか

スナック菓子、カップ麺、清涼飲料水などの「超加工食品(UPF)」は、体を治すのに必要なビタミンやミネラルが削ぎ落とされているだけでなく、多くの糖質が血糖値を大きく揺らします。第2章の③安定が崩れる、いちばんの近道です。腸内環境を乱す一因にもなり、①お腹と④守りにも静かに効いてきます。

ただし、私は「一切やめましょう」とは言いません。現実的ではありませんし、その提案は続かないからです。大切なのは、依存しすぎないこと。それだけです。具体的な付き合い方は、第5章でお伝えします。

第4章:土台づくりは、生まれる前から始まっている

4-1. 体は大きくなった。けれどスタート地点には課題がある

戦後から現代にかけて、日本の子どもたちの平均身長が大きく伸びたことは、誰もが知る事実です。これは安定した食料供給による栄養改善の賜物であり、現代が手に入れた大きな恩恵です。

その一方で、私たちは生命のスタート地点で、見過ごせない課題に直面しています。赤ちゃんの「出生体重」が、この30〜40年ほど長期的に減少傾向にあるという事実です。

「小さく生まれても、あとで大きく育てば問題ないのでは」と思われるかもしれません。しかし近年の研究では、胎児期の栄養状態がその子の一生涯の健康に影響するという「DOHaD(ドゥーハッド)」という考え方が、常識になりつつあります。

これは、胎内で栄養が不足した赤ちゃんは、エネルギーを効率よく溜め込む“省エネ体質”のスイッチが入った状態で生まれてくる、というものです。その子が飽食の現代を生きると、省エネ体質が裏目に出て、将来の生活習慣病につながりやすくなる可能性がある。これは、お母さんを責める話ではありません。知らないまま通り過ぎるのはもったいない、というだけの話です。

4-2. 体づくりは「家づくり」。基礎工事の時期は決まっている

体づくりを、家づくりにたとえてみます。

お母さんのお腹の中にいる時期から、骨格や内臓ができあがる思春期まで。ここは、家の土台・柱・梁という構造をつくる「基礎工事」の期間にあたります。この時期に良い材料(栄養)が届き、適切な刺激(運動)が加わることで、びくともしない家が建ちます。

成人期からは、その家を保つ「メンテナンス」の時期です。基礎さえしっかりしていれば、多少の嵐が来ても持ちこたえますし、手入れも楽になります。

もし基礎工事が不十分だったら、どうでしょうか。どれだけ立派な家具(教育や知識)を運び込んでも、家そのものが傾いていては置き場所がありません。私が基礎工事の話をくり返すのは、この時期が、人生で一度きりだからです。

4-3. お母さんが元気になると、お子さんも変わる

近年、私が強く実感しているのがこの点です。お母さんの栄養状態は、母乳の質を左右し、ご家族全体の空気を左右します。そして多くの場合、お母さん自身が、鉄やタンパク質の不足を長く抱えたまま走り続けています。

お子さんの食事を整えようとするとき、ご自身の分を「ついで」にしないでください。お母さんが少し元気になるだけで、家の中で起きることが変わります。子どもを整えるために、まずお母さんを整える。これは遠回りに見えて、いちばんの近道です。

第5章:家庭で、今日からできること

5-1. まず、この逆引きから探してください

いちばんよくいただくご相談を、5つの土台に結びつけました。お子さんに当てはまる行を1つだけ選んで、そこから始めてください。全部を同時に、とは考えないでください。

  • 朝、起きられない/登校をしぶる
    関わる土台=②元気・③安定/まず見るのは、鉄の材料・ジュースの量・夕食と寝る前の糖質
  • 風邪をひきやすい/治りにくい
    関わる土台=④守り・①お腹/まず見るのは、ビタミンD(魚・きのこ・外遊び)・腸内環境
  • 湿疹が長引く
    関わる土台=①お腹・④守り/まず見るのは、油の種類・乳製品の量・ビタミンD
  • 集中が続かない/気持ちの波が大きい
    関わる土台=②元気・③安定/まず見るのは、鉄・ビタミンB群・おやつと飲み物の中身
  • 眠りが浅い/夜中に目が覚める
    関わる土台=③安定・②元気/まず見るのは、夜間の血糖の落ち込み(寝る前の甘いもの)
  • 身長が伸びにくい/食が細い
    関わる土台=⑤成長・①お腹/まず見るのは、タンパク質の量・亜鉛・消化する力
  • 便秘・下痢をくり返す
    関わる土台=①お腹/まず見るのは、水分・食物繊維・発酵食品。長引くときは受診を

この逆引きは「原因を決めつける表」ではありません。どこから見に行くかの順番を決めるための表です。気になる症状が続くときは、必ずかかりつけの医師にご相談ください。

5-2. 土台を育てる「7つの習慣」

それぞれ、どの土台に効くのかを添えました。ここでも、選ぶのは1つで十分です。

  • 習慣1:お腹を整える(→①お腹)
    腸には、善玉菌そのもの(発酵食品)と、そのエサになるもの(食物繊維)の両方が要ります。味噌、納豆、醤油、ぬか漬け、ヨーグルトと、海藻、きのこ、根菜、豆類、全粒穀物を、毎日少しずつ。まずは味噌汁を1杯増やすところからで構いません。
  • 習慣2:鉄とタンパク質を切らさない(→②元気・⑤成長)
    体の材料と発電所の部品を、同時に運べるのが動物性の食品です。赤身の肉、レバー、卵、あさり、かつお・まぐろなどを、一日のどこかに入れてください。野菜の鉄は吸収されにくいので、ビタミンC(果物・野菜)と一緒にとると助けになります。
  • 習慣3:血糖の波を穏やかにする(→③安定)
    いちばん簡単なのは「食べる順番」です。最初に汁物や野菜(食物繊維)、次に肉や魚(タンパク質・脂質)、最後にご飯やパン(炭水化物)。これだけで血糖の上がり方はかなり緩やかになります。おやつは、菓子パンやジュースより、おにぎり・ふかし芋・果物・ゆで卵・チーズが安定します。
  • 習慣4:魚の油を取り戻す(→④守り・⑤成長)
    不足の大きいn-3系脂肪酸のために、週に2〜3回は魚を。アジ、サバ、イワシ、サンマなどの青魚が理想です。調理が大変ならサバ缶・イワシ缶(水煮や味噌煮)を常備してください。味噌汁に入れる、野菜と和える、それだけで一品になります。
  • 習慣5:ビタミンDとカルシウムはセットで(→④守り・⑤成長)
    ビタミンDはサケ・サンマなどの魚類ときのこ類、そして外遊びの日光から。カルシウムは乳製品だけに頼らず、小魚、豆腐や納豆、小松菜や水菜などの青菜、ひじきと、いろいろな食品から集めるのがおすすめです。
  • 習慣6:超加工食品と、賢く距離をとる(→土台全体)
    やめるのではなく、置き換えるのがコツです。「スナック菓子を、おにぎりかふかし芋に」「ジュースを、お茶か水に」。まずはこの2つだけ。あわせて、昆布や鰹節で出汁をとると、味噌や醤油を減らしても満足感が上がり、自然と減塩になります。
  • 習慣7:次の世代のために(→生まれる前の土台)
    これから新しい命を迎える方、妊娠中のお母さんには、葉酸、鉄、DHA、ビタミンDを意識していただきたいと思います。赤ちゃんの脳・神経・骨格がつくられる場面で、中心的な役割を果たす栄養素です。

5-3. 食事だけではありません──運動・日光・睡眠

ここまで栄養の話に絞ってきましたが、体は食事だけでできているわけではありません。
適度な運動は骨と筋肉を育て、脳への血流を増やします。日光を浴びることは、体の中でビタミンDを作るために欠かせません。そして質のよい睡眠は、日中に受けたダメージを修復し、記憶を定着させ、成長ホルモンを出すための、代えのきかない時間です。

良い食事が運動・日光・睡眠の効果を引き出し、その逆もまた起こります。これらが揃って、はじめて土台が固まります。

5-4. 完璧でなくていい理由

最後に、いちばんお伝えしたいことを書きます。

栄養が足りないと睡眠の質が上がりません。けれど、睡眠が取れていないと栄養の吸収も落ちます。これは「鶏と卵」の関係です。だからこそ、どちらかを完璧にしてからもう片方へ、ではうまくいきません。

正解は、両方を、できる範囲で、同時に少しずつです。夕食に卵を一つ足しながら、寝る時間を30分早める。ジュースを1本減らしながら、週末に外で遊ぶ時間を作る。波があって当たり前ですし、崩れる日があっても構いません。

「今日できることを、ひとつ」。その積み重ねだけが、土台を育てます。近道はありませんが、遠回りでもありません。

【結論】「治る力の差」は、運命ではない

この記事の出発点は、「なぜ、同じ病気でも“治る子”と“治りにくい子”がいるのか」という問いでした。

その答えの多くは、「個性」や「体質」という言葉で終わるものではありません。日々の食事が育てる栄養という土台の差であり、それは私たちの選択によって、あとから育てられるものです。

もちろん、栄養がすべてではありません。ここまでお話ししてきた栄養は、あくまで土台です。土台づくりは、ゴールではなく、始まりにすぎません。その上にどんな心を建てていくかは、ご家庭の中の会話や、人との関わり、学びの機会にかかっています。

子育ては、喜びも大きいけれど、時に孤独で、不安になるものです。お子さんの繰り返す不調に「なぜうちの子だけ」と悩んだときは、どうぞ一人で抱え込まないでください。そして、その悩みを「体質だから」で終わらせないでください。見に行ける場所が、まだ5つあります。

長い文章を最後までお読みいただき、ありがとうございました。今日の夕食から、ひとつだけ試していただけたら幸いです。

よくいただくご質問(Q&A)

Q1. 何から始めればよいか、決められません。

A1. 迷われたときは、①お腹から始めてください。理由は本文のとおりで、ここが細いままだと、上の土台に何を足しても届きにくいからです。具体的には「味噌汁を1杯増やす」「便通の様子を1週間だけ記録する」。それだけで十分なスタートになります。

Q2. 忙しくて食事に手をかけられません。サプリメントを使ってもよいですか?

A2. 栄養補助食品を賢く使うのは、有効な手段のひとつです。とくにビタミンDや、魚を食べる機会が少ない場合のDHA・EPAなどは、補うことが助けになる場面があります。
ただし大前提として、「食事こそが基本」であることは忘れないでください。食事からは、ビタミンやミネラルだけでなく、食物繊維や、まだ解明されていない多くの成分をまとめて受け取ることができます。まずは「サバ缶を味噌汁に入れる」「おやつをおにぎりに変える」といったところから始めて、どうしても補いきれない部分を足していく。この順番が理想的です。
なお、お子さんに何をどれだけ足すかは体格や状態で変わります。自己判断で量を増やさず、医師や専門家にご相談ください。

Q3. うちの子はアレルギーが多く、食べさせられるものが限られています。

A3. 食物アレルギーのあるお子さんの食事管理は、本当に大変なことと思います。除去が必要な食品がある場合は、代わりの食品で栄養のバランスを組み直すことが要になります。
たとえば乳製品を除去してカルシウムが不足しがちなときは、小魚・青菜・大豆製品・ごまを意識的に。小麦を除去するときは、米粉・玄米・いも類を主食の軸に据えます。
大切なのは、一人で悩まず、必ずかかりつけの医師や管理栄養士に相談することです。アレルギーの状態は一人ひとり違います。専門家と一緒に、お子さんに合った安全な食事プランを立てていきましょう。

Q4. 食が細く、量を食べてくれません。

A4. 量を増やす前に、①お腹を見てください。お腹が張っている、便が出きっていない、ガスが多い——こうした状態では、体が「もう入らない」と言っています。ここを整えると、量は自然と戻ってくることがあります。
あわせて、味覚に関わる亜鉛が不足していないかも一つの視点です。無理に食べさせようとするより、1回の量を減らして回数を増やすほうが、結果的に入ることが多いと感じています。

Q5. どれくらい続ければ、変化が出てきますか?

A5. もっともお答えの難しい質問です。体が細胞のレベルで入れ替わるには、少なくとも3ヶ月から半年はかかると言われています。まずは「3ヶ月」を目安に、できる範囲で続けてみてください。
ただ、焦る必要はまったくありません。「風邪をひく回数が少し減ったかもしれない」「前より機嫌のよい時間が増えた」といった小さな変化に気づけることのほうが、はるかに大切です。食事の見直しは、短期の結果を取りに行くものではなく、一生涯の「家の基礎」を毎日少しずつ積む、長い工事なのです。

この記事の執筆にあたり参考にした情報

本記事は、筆者の臨床経験に加え、厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」、各種国民健康・栄養調査、国内外の栄養学・免疫学に関する学術論文など、信頼性の高い情報源に基づいて執筆しています。なお、本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。

著者プロフィール

小児外科専門医・医学博士 小森 広嗣(こもり こうじ)

慶應義塾大学医学部を卒業後、東京都立小児総合医療センターなどで小児外科医として豊富な臨床経験を積む。現在は東京都国分寺市で、日々多くのご家族と向き合っている。日本小児外科学会認定の小児外科専門医・指導医、医学博士。

私が診療で大切にしているのは「体という土台の上に、心が育つ」という考え方です。この記事を通じて、一人でも多くのご家庭が、楽しく安心して子育てができる社会を創る一助となれば幸いです。