「なんで早く言わなかったの!」
駅へ向かう道の途中で、わが子のズボンが濡れているのに気づいた時。私の口から出たのは、その一言でした。
ずっと我慢していたんですよね。言えばよかったのに——と思いながら、言えなかった理由も、本当はわかっていました。言えば困らせる、怒られる。そう思ったからです。
そして家に帰って、ひとりになった台所で、ふっとため息が出る。「また怒っちゃったな」と、今度は自分を責めてしまう。あの静けさが、私はいちばん苦手でした。
こんにちは、『7つの習慣®』実践会認定ファシリテーターのちあきです。
先日、Podcastで「戦略」というテーマでお話ししました。戦略なんて言うと、会社やスポーツの世界の、なんだか遠い言葉に聞こえるかもしれません。でも私は、子育てや毎日の暮らしの中にこそ、いちばん使える戦略があると思っているんです。今日はその話を、台所の目線で書いてみますね。
戦略って、じつは「天気予報」と同じなんです
戦略と聞くと難しく感じますが、いちばん身近な例が「天気予報」なんです。
朝、予報を見たら、雨マークがついています。さあ、どうしますか。折りたたみ傘をカバンに忍ばせて出かけますよね。猛暑の予報なら、日傘を持ったり、日よけの手袋を用意したり。これって、当たり前のようでいて、りっぱな戦略なんです。
なぜ私たちは、こんなにも自然に傘を持てるのでしょう。それは、過去に「ああ、濡れちゃった」「暑くてつらかった」という小さな失敗を経験しているから。その経験が、「予報を見る」「持ち物を揃える」という次の行動につながっているんですよね。
つまり戦略とは、大げさなものではないんです。うまくいかないこと(失敗)を先に見込んで、じゃあどうするかを決めておくこと。ただそれだけ。
「もし失敗したら」を、私たちは考えていない
ところが、です。
私たちは「どうやったら成功するか」はよく考えます。でも、「もし失敗したらどうするか」って、意外と考えていないんですよね。天気のことはあんなに準備できるのに、子育てや仕事の場面になると、ぼんやりしたまま本番を迎えてしまう。
だから、いざ失敗が起きると慌ててしまうんです。「どうしよう」と、まず親のほうがパニックになる。考えていなかったから、頭が真っ白になって、つい感情のままに「なんでこうしちゃったの!」と言ってしまう。そして急に忙しくなって、家じゅうを走り回る羽目になる。
これ、子どもがいけないわけでも、あなたの性格がいけないわけでもないんです。ただ、「失敗するかもしれない」という前提を、あらかじめ心に置いていなかっただけ。トイレトレーニングの時期なのだから、失敗はあって当たり前。その当たり前を先に受け入れておくだけで、心にふっとゆとりが生まれるんですよね。
私は長いあいだ、その場で言い方を探していました
ここで、私自身の失敗の話をさせてください。
うちの子が、ご飯を食べてくれない時期が長くありました。「ご飯食べようね」の言い方を、私は本当にいくつも試したんです。優しく言ってみたり、面白く言ってみたり、厳しく言ってみたり。全部試しました。それでも、届かなかった。
いま振り返って思うのは、私はいつも「その場」で言い方を探していた、ということなんです。目の前で困ったことが起きてから、慌てて手札をめくっていた。だから、どれを出しても間に合わなかったんですよね。
もうひとつ、思い出すことがあります。私自身、自分がこうだと思っていることを「それは違う」と否定されたとき、素直に聞けるどころか、「そんなことはない」と、かえって意固地になってしまったことがありました。あれは失敗だったな、といまでも思います。
大人の私でさえ、そうなんです。だとしたら、失敗した瞬間に「なんで早く言わなかったの」と言われた子が身構えてしまうのは、当たり前なんですよね。
失敗を「あるもの」として、先に決めておく三つ
では、具体的に何を決めておくといいのでしょう。私が大切にしているのは、三つです。
① モノの「正位置」を決めておく
失敗したその瞬間に、「あれ、着替えどこだっけ」「雑巾はどこ」と探し回るから、よけいに慌ててしまうんですよね。
だから、着替え・雑巾・ビニール袋を一式まとめて、いつも同じ場所に置いておく。そして出かける日は、その小さい版をカバンに。「失敗セット」の正位置を決めておくだけで、いざという時の慌てがぐっと減ります。探す時間がゼロになると、その分だけ、子どもの顔を見る余裕が生まれるんです。
② 「決めセリフ」を決めておく
そしてもう一つが、声かけを先に決めておくこと。これがいちばん効きます。
何も決めていないと、失敗した瞬間に出てくるのは「なんでさっき言わなかったの」という言葉。でも、そう言われた子は「自分は悪い子だ」と身構えてしまいます。多感な時期の子だと、かえって「失敗しちゃいけない」というプレッシャーで、何度もトイレに行きたがったり、緊張してしまったり。逆効果になることもあるんですよね。
だから、決めセリフを先に用意しておくんです。たとえば——
・「あ、失敗しちゃったね。じゃあ、まず着替えようね」
・「気持ち悪かったよね。教えてくれてありがとう」
・「その分、遊ぶ時間もちょっと減っちゃうね。次は早めに教えてね」
不思議なもので、セリフを決めておくと、本番で失敗が起きても、そのセリフがすっと出てきます。慌てないから、感情的にもならない。子どもにも「失敗は悪いことじゃない」というメッセージが、静かに伝わっていくんですよね。
③ 「はい、想定内」と、自分に言う
三つめは、決めておく相手が子どもではなく、自分、という点だけが違います。
Podcastの収録中に、こんな言葉が出てきました。「もう想定内だから、っていう、ちょっと余裕がありますよね」。この「想定内」という言い方が、すごくいいなと思ったんです。
決めておいた失敗が実際に起きたとき、心の中で「はい、想定内」と自分に言う。たったそれだけで、その出来事が”事故”から”予定”に変わります。予定なら、慌てなくていいんですよね。そして不思議なことに、想定内の失敗をひとつ乗り越えるたびに、それは自分の成功体験として積み上がっていくんです。
それでも、セリフが出てこない日があります
決めセリフを用意していても、どうしても口から出てこない日って、あるんですよね。私にも、ありました。
私の場合、変わったきっかけは、意外にも食事のほうでした。糖質をどう摂らないようにするかを工夫して、タンパク質をしっかり摂るようにしたんです。子どもたちも一緒に。
そうしたら、まずむくみが取れました。そして、怒る回数が、少なくなったんです。
あのとき、思ったんです。ああ、性格じゃなかったんだ、って。
もし今、「どうして私はこんなに余裕がないんだろう」と自分を責めている方がいたら、お伝えしたいことがあります。それは、あなたの性格のせいではないかもしれません。足りなかったのは我慢や愛情ではなく、体の材料だっただけ、ということが本当にあるんです。
(体に必要なものは一人ひとり違います。気になるときは自己判断ではなく、かかりつけの先生に相談しながら進めていけたらと思います。)
これ、7つの習慣の「終わりを思い描く」なんです
じつはこの「逆算の戦略」、私がいつも大切にしている『7つの習慣』の、第2の習慣「終わりを思い描くことから始める」と、まっすぐつながっているんです。
失敗そのものをなくすことはできません。でも、「失敗したあと、自分はどんな気持ちでいたいか」は、先に選ぶことができます。
失敗して落ち込んでいる自分を思い描くのか。それとも、失敗をひとつ乗り越えて「よし、また一歩」とうなずいている自分を思い描くのか。どちらを先にイメージするかで、その後の行動は、驚くほど変わっていくんですよね。
そしてこれは、子育てだけの話ではありません。仕事の現場でも、自分自身の毎日でも、同じように使えます。ただ成功を狙うだけでなく、波が来たときの対応を先に考えておく。その過程こそが、暮らしの中の「戦略」なんです。
心の扱い方は、あとから学べます
戦略も、決めセリフも、「はい、想定内」の一言も、生まれ持った性格ではありません。あとから身につけられる「心の扱い方」なんです。
私はそれを、『7つの習慣』と、日々の食卓の両方から教わってきました。うまくいかない日も、まだたくさんあります。それでも、体の材料を整えて、心の扱い方をひとつずつ覚えていくと、同じ出来事の受け取り方が、少しずつ変わっていくんですよね。
そして、これは一人ではなかなか続かないんですよね。だから私は、同じように前を向きたいと思っている方と一緒に練習していける場をつくりたくて、Podcastやこのサイトで、LifeCrescendoの活動を続けています。
今日からできる、お金のかからない第一歩
最後に、今日からできる、いちばん簡単な一歩を。
道具を買う必要も、特別な時間をとる必要もありません。次に「うまくいかないかも」と思う場面が浮かんだら、そこで一度だけ、こう自分に問いかける。
「もし失敗したら、私はどう声をかけたいだろう?」
たったこれだけで、心の準備が半分できています。あとは、その言葉を、そっとポケットに入れておくだけ。次の「失敗」が、少しだけ、こわくなくなっているはずです。
完璧にできなくて大丈夫。私も、いまも毎日バタバタです。それでも、一緒に、ちょっとずつ心のゆとりを育てていきませんか。
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この記事をお届けした人
ちあき(小森 千明)
元・特別支援学校教諭 | 栄養カウンセラー
特別支援学校の教員でした。教えていたのは、音楽です。言葉にならない声を、聞き取る仕事でした。その聞き取り方を、いちばん近いところで試されたのが、わが子の子育てです。
メロディーは、その人のもの。私が変えるのは、リズムのほう。
いまは、栄養カウンセラーとして、ご家族の食卓と、毎日の選択の隣にいます。小森こどもクリニックの運営統括マネージャーとして、いまも毎日、現場にいます。
弘前大学 教育学部 障害児教育課程卒。特別支援学校教諭一種免許(知的障害・肢体不自由・病弱)、中学校・高校 音楽教諭一種免許。オーソモレキュラー・ニュートリション・エキスパート(ONE)認定。『7つの習慣®』実践会認定ファシリテーター。3児の母。
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