💡 この記事の活用について ここでは、当院の栄養外来で、多くのご家族と一緒に実践し、効果を確認してきた「飲み方の工夫」の一部をご紹介します。
【必ずお読みください】 この情報は、医師の診察を受け、指導下にある患者様へのサポートとして提供しています。 お子様の体質や現在の治療状況によっては、適さない方法も含まれます。初めての方は自己判断せず、必ず医師の診察・指示を受けてから実践してください。
1. 「食べたはずなのに、すぐ動けなくなる」謎
「給食もしっかり食べたはずなのに、帰ってくるなり玄関で倒れ込んでグズりだす」
「たっぷり寝たはずなのに、朝から『疲れた』と言って布団から出てこない」
「起きた瞬間からイライラしていて、朝ごはんを食べさせるだけで一苦労…」
「授業中、2時間目にはもう集中力が切れてボッーとしていると言われる」
他の子と同じように食べているのに、なぜうちの子だけ、こんなにスタミナがないのでしょうか? 実は、これこそが分子栄養学で考える「エネルギー産生の苦手さ(燃費の悪さ)」かもしれません。
2. エネルギー工場が「うまく回っていない」可能性
私たちの体には、食べたものを電気に変える「小さな発電所(ミトコンドリア)」が無数にあり、そこで「活動エネルギー(ATP)」を作り出して動いています。
通常、この発電所は「炭水化物(ごはんやパン)」と「脂質(油)」の両方を燃料にできます。 炭水化物はすぐに火がつきますが、すぐに燃え尽きてしまいます。一方、脂質は長く安定して燃え続けます。
しかし、栄養バランスの偏り(鉄やビタミンB群の不足など)があるお子さんの場合、この発電所がうまく回らず、「脂質メインの安定モード」が使えなくなってしまいます。 結果として、「炭水化物」という瞬発的な燃料だけに頼る「自転車操業」のような状態に陥ります。
【炭水化物は悪者ではありません】 誤解しないでいただきたいのは、「だから炭水化物をやめさせなきゃ!」と焦る必要はないということです。 成長期の子どもにとって、炭水化物(糖質)もまた、体を大きくし、脳を動かすための大切な燃料です。
大切なのは、「炭水化物『だけ』に頼る一本足打法」から、「脂質『も』使える二刀流」へとバランスを整えてあげること。 そのための強力なサポート役が、次に紹介するMCTオイルなのです。
例えるなら、「スマホのバッテリーが劣化して、充電してもすぐに減ってしまう状態」です。
- 燃費が悪いため、少し活動しただけですぐにエネルギーが空っぽになる。
- エネルギーが足りなくなると、脳は「生きていくための機能(呼吸など)」を最優先し、「理性を保つ機能(前頭葉)」を真っ先にシャットダウンします。
これが、夕方の「理不尽な癇癪(かんしゃく)」や「落ち着きのなさ」の正体です。 性格の問題ではなく、脳が物理的にガス欠を起こしてパニックになっているのです。
3. そこで、MCTオイルという「高速道路」を使う
「工場がうまく回らないなら、どうすればいいの?」 ここで登場するのがMCTオイル(中鎖脂肪酸)です。
MCTオイルの最大の特徴は、「肝臓への直通ルート(門脈経由)を持っている」という点です。
一般的な油(長鎖脂肪酸)は、リンパ管を通って全身を巡ってからゆっくりと代謝されます。 しかし、MCTオイル(中鎖脂肪酸)は、小腸から吸収されると、「門脈」という血管を通って直接肝臓へ運ばれます。
これにより、一般的な油の約4倍〜10倍の速さで分解され、「ケトン体」というエネルギー物質に素早く変換されます。
この「ケトン体」こそが、脳にとって非常に重要な役割を果たします。
- 脳の即戦力エネルギーになる
- ブドウ糖(糖質)がうまく使えない時でも、ケトン体は脳の関門(血液脳関門)を通過し、神経細胞のエネルギー源として直接利用されます。
- 脳の興奮を鎮める(リラックス効果)
- 近年の研究で、ケトン体には脳の神経細胞の興奮を抑え、安定させる働きがあることがわかってきました。
- イライラして高ぶった神経(グルタミン酸過剰)を落ち着かせ、GABA(リラックス物質)の働きを助ける可能性があるとされています。
つまり、MCTオイルは単なるカロリー補給ではなく、「脳に直接届くエネルギー」であり、「脳を内側から落ち着かせるサポーター」なのです。
- 血糖値を上げない(インスリンによる乱高下・眠気を防ぐ)
- 苦手な代謝経路を使わない(工場の稼働状況に関わらず届く)
つまり、エネルギーを作るのが苦手なお子さんにとって、MCTオイルは「唯一、確実に脳に届く命綱(サブバッテリー)」になり得るのです。
4. 「薪(まき)」と「着火剤」の使い分けがカギ
「油=太る」というイメージがあるかもしれませんが、成長期の子どもにとって脂質は「メインのガソリン」であり、「脳を作る大切な材料(脳の60%は脂質)」です。 糖質(ごはん・パン)だけに頼るとすぐにガス欠になってしまうため、良質な油をしっかりとることは、スタミナ維持の必須条件なのです。
では、「油は全部MCTにすればいいの?」 と思われるかもしれませんが、それは違います。ここで大切なのが、他の油(オリーブオイルなど)との「役割分担」です。
- オリーブオイル・米油(長鎖脂肪酸):
- 消化に時間はかかりますが、ゆっくりと長く燃え続けます。
- また、細胞膜を作る「材料」としても重要です。
- 例えるなら、「じっくりと燃え続ける、太い薪(まき)」です。
- MCTオイル(中鎖脂肪酸):
- 一瞬で燃えてエネルギーになりますが、体の「材料」にはなりません。
- 例えるなら、「消えかけた火を瞬時に復活させる、着火剤」です。
【当院がおすすめするハイブリッド戦略】 普段の食事(ベース)では、良質なオリーブオイルや魚の油(DHA)でしっかり「体という暖炉」を作っておく。 そして、エネルギー切れを起こしそうな「ここぞ!」というタイミングで、MCTという「着火剤」を投入する。
この「組み合わせ」こそが、お子さんの脳と体を守る最強のエネルギー管理術です。
5. 「ガス欠ランプ」が点く前に!タイミングの科学
バッテリーが劣化しているスマホを使う時、皆さんはどうしますか? 「0%になって電源が落ちてから」充電するのではなく、「切れそうになる前」にモバイルバッテリーを繋ぐはずです。
お子さんの脳も全く同じです。 癇癪が起きて(電源が落ちて)からでは、回復に時間がかかります。 MCTオイルの血中濃度がピークになるのは「摂取後1〜2時間」と言われています。 つまり、「切れる1時間前」に先回りしてMCTを入れておく。これが最大のポイントです。
【具体的な“先回り”のタイミング】
① 「魔の17時」に荒れる場合
- ガス欠の予兆: 16時頃にあくびが増える、姿勢が崩れる、甘いものを異常に欲しがる。
- MCT投入: 15時〜16時のおやつタイム
- 狙い: 17時のガス欠ピークに向けて、1時間前に血中濃度を上げておきます。「夕食まで待たせる」のではなく、ここでおにぎりやスープにMCTを混ぜて「つなぎ」を入れます。
② 午前中に集中力が切れる場合
- ガス欠の予兆: 朝起きられない、1〜2時間目の授業でボッーとする。
- MCT投入: 朝食時(7時頃)
- 狙い: 糖質燃焼が苦手な子は、朝のパンだけでは10時にはガス欠になります。朝イチでMCTを入れておくことで、午前中の授業を乗り切るスタミナを支えます。
6. 失敗しないための「スモールステップ」(重要)
「体にいいなら、たくさん飲ませたい」 そう思うのが親心ですが、MCTオイルに関しては「焦りは禁物」です。
MCTオイルは消化・吸収が非常に速いため、一度にたくさん入ると、腸がびっくりして水分を引き込み、腹痛や下痢を起こすことがあります。 一度お腹が痛くなると、お子さんは「二度と飲みたくない!」と拒絶してしまいます。
大切なお子さんのお腹を守るため、以下のルールを徹底してください。
- 「ごく少量」からスタート
- 目安は「小さじ1/4 〜 1/2(約1〜2g)」です。「えっ、これだけ?」という量から始めてください。
- 必ず「食事」に混ぜる
- 単独では飲まず、お味噌汁、スープ、ヨーグルトなどに混ぜて、腸への刺激を和らげてください。
- 焦らず「数週間」かける
- お腹がゆるくならないか観察しながら、1週間単位で少しずつ増やし、最終的に「小さじ1杯(5mL)」程度を目指します。
7. まとめ:親ができる「バッテリー管理」
「またイライラしてる!」と叱る前に、少しだけ観察してみてください。 そのイライラは、脳からの「エネルギー足りないよ!」というSOSかもしれません。
苦手なエネルギー作りを、MCTという「別ルート」で助けてあげる。 そして、ガス欠になる前に先回りして補充してあげる。
この「バッテリー管理」の視点を持つだけで、お子さんの毎日は驚くほど安定することがあります。 まずは小さじ1/4の「予備電源」から、試してみませんか?
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部卒。都立小児総合医療センター外科医長などを経て小森こどもクリニックを開院。 小児外科専門医として数多くのおなか(消化管)の手術や治療に携わり、「こどものお腹のスペシャリスト」として消化管の構造と機能に精通する。
自身や家族の不調が栄養療法で改善した手応えから、「西洋医学だけでは届かない不調」の解決策として「栄養」の重要性を確信。 「吸収の場である腸」と「体の材料となる栄養」の両面から、標準治療と分子栄養学を柔軟に組み合わせ、その子の体の土台を根本から整える「統合的な医療」を実践している。 日本小児外科学会認定専門医・指導医、医学博士。
