私たちは日々、無意識のうちに「誰か」と自分を比べてしまいます。
SNSを開けば華やかな成功が見え、「結果」を出さなければならないという焦りに駆られる。
しかし、本当に豊かな人生とは、そうした「比較」の先にあるものではありません。
大切なのは、「比較」を手放し、自分だけの「物語(ストーリー)」を生きること。そして、その過程で人生の「厚み」を育てていくことです。
これは、私たち「心と体の栄養研究所」が探求しているテーマの核心でもあります。
先日、精神科医・平光源先生の講演会に参加し、そこで語られた言葉が、まさにこの「人生の厚みを育てる」という私自身の哲学と強く重なりました。
医師として、そして一人の親として、深く心に響く時間でした。
今日は、平先生の言葉をヒントに、私たちがどうすれば「比較」を手放し、自分だけの「物語」を豊かに紡いでいくことができるのか、その「ストーリーメイキングの技術」について考察します。
1. 人生の豊かさとは「結果」ではなく「厚み」である
私たちは、つい「結果」を求めがちです。
しかし、目標を達成し、望んだ結果が手に入った瞬間、どこか虚しさを感じた経験はないでしょうか。
平先生は、まさにそこに人生の面白さの本質があると語られました。
「簡単にゴールが決められるサッカーの試合は、誰も何度もプレーしたいとは思わない。
だからこそ、人生にも“思い通りにならない時間”が必要なのです。」
この言葉は、私自身の人生観そのものでした。
生きる喜びとは、「うまくいくこと」ではなく、「できなかったことができるようになる」というプロセス(過程)にこそ宿ります。
早く成果を求めることは、実は“感動のプロセスを体験する機会”を失うことでもある。
人生の豊かさとは、どれだけ多くの経験を、喜びも苦しみも含めて「感動」に変えていけるか。
私たちは、その「感動の振れ幅=厚み」を育てにきているのだと思います。
2. 「厚み」を育てるヒント(−80から+80の振れ幅)
この「厚み」について、平先生は非常に印象的な話をされました。
「もともと60の幸せをベースに生きている人が、80の幸せを感じたとしても、その振れ幅=感動の“厚み”は20しかない。
けれど、自分に−80の不幸があると感じる人が、そこから+80の幸せを知ることができたなら、
その“160の厚み”こそが、人を導き、感動を生む。」
人はどうしても「自分が正しいか」「間違っているか」「上か下か」を気にしてしまいます。
しかし、生きるとは比較ではなく、自分だけの“厚みを育てること”です。
上を見れば限りなくすごい人がいて、下を見れば苦労の少ない人もいる。
でも、それを比べても何も始まりません。
大事なのは、「自分のペースで厚みを育てていくこと」です。
−80の深い谷を知っているからこそ、+80の喜びの大きさを知ることができる。その厚みこそが、他者の痛みを理解し、深く寄り添う力となります。
3. 「自分のメガネ」が「比較」を生み、厚みを阻害する
では、なぜ多くの人が「厚み」を育てるプロセスを楽しめず、苦しんでしまうのでしょうか。
その根底には、「理解」をめぐる深い課題があります。
平先生の講演で語られた「理解」に関するお話が、特に印象に残っています。
「自分の“イエス”が相手の“イエス”ではなく、自分の“No”が相手の“No”でもない。
私たちは皆、それぞれ赤いメガネ、黄色いメガネ、緑のメガネをかけて世界を見ている。」
同じ出来事を見ていても、感じ方や受け取り方は人によってまったく違います。それは“間違い”ではなく、“その人にとっての真実”。
相手がどんな色のメガネで世界を見ているのかを知ろうとすることに、本当の理解と優しさが生まれる――その言葉に、心がふっと軽くなるのを感じました。
しかし、一方で「だからこそ、他者に完全に理解されることもまた難しい」という真実にも気づかされます。
私たちはつい、「良かれと思って伝えること」が、相手にとっても良いことだと思い込みがちです。
自分の中では“エネルギーを込めて話した”つもりが、相手にとっては“押しつけられた”ように感じることがある。
相手が「Yes」と言わないのは、拒否ではなく、「今は受け取る余裕がない」だけかもしれないのです。
この「分かり合えなさ」こそが、「比較」を生む温床になります。
自分の「メガネ」を基準にするから、「あの人より劣っている」「自分のやり方は間違っている」と感じてしまう。
だからこそ、他者の評価や「比較」に振り回されるのではなく、自分の軸をしっかり持ち、自分自身の人生を「幸福」や「幸せ」で満たしていくストーリーメイキングが不可欠なのです。
4. 弱さ(−80)こそが「厚み」の源泉になる
「比較」を手放し、自分の「厚み」を育てる。
その最大のヒントが、講演で語られた「赤鼻のトナカイ」の話にありました。
「まっ赤なお鼻を笑われていたトナカイ。
けれど、暗いクリスマスの夜には、その光こそがサンタクロースを導く希望となる。自分の花なんて劣等感の塊だと思っていたけれど、
実はそれが人を喜ばせる力になる。」
人は誰しも、自分の中に“赤い鼻”のような弱み(−80の経験)を持っています。
しかし、見方を変えれば、それこそが他人を照らす光。
まさにその弱さ、コンプレックス、うまくいかない経験こそが、その人にしか出せない「厚み」の源泉となります。
ネガティブな経験こそが、体験の本当の価値を教えてくれます。
深い谷を知っている人ほど、世界の見え方はまったく変わる。
それは私自身の過去の経験からも、心から言えることです。
5. まとめ:「比較」を手放し、自分だけの「ストーリーメイキング」を
大切なのは、他人の舞台で脇役を演じることではありません。
「自分の人生」という舞台で、自分だけの物語を描いていくこと。
平先生の言葉(「完全に理解されるのは難しいからこそ、自分のストーリーメイキングが大切」)は、この真実を裏付けてくれました。
うまくいかない現実、ネガティブな経験(−80)すらも、自分の物語を深く、豊かにするための「厚み」として捉え直す。
その時、私たちは「比較」の呪縛から解放され、プロセスそのものを楽しむことができるようになります。
だからこそ、うまくいかない現実の中で、
どう生きるか、どう自分の花を咲かせるか。
そこにこそ、“生きる意味”があるのだと思います。
「心と体の栄養研究所」では、これからも、こうした「生きる厚み」を育てるための視点や考え方を探求し、発信していきたいと思います。
🎁あなたの世界を変える一冊
今回の講演でお話しくださった平光源先生の温かい哲学は、
ご著書『だいじょぶだぁ』(幻冬舎)に優しく詰まっています。

この本を読むと、まるで平先生が隣で「だいじょぶだー」と言いながら、そっと背中を押してくれるような気持ちになります。
もし今、子育てや人間関係で「思い通りにいかない」と感じている方がいらしたら、ぜひ手に取ってみてください。
きっと、あなたの“メガネの色”が少し変わり、
世界が温かく見えるようになると思います。
(執筆者)
心と体の栄養研究所
ライフコーディネーター:小森ちあき
小児外科医、哲学医:小森 広嗣
