「また熱が出た…」「この風邪、いつになったら治るんだろう…」
こんにちは。LifeCrescendoの「哲学医」、医師の小森広嗣です。
私は小児科医であると同時に、長年、小児外科医として小児病院で数多くの手術や外来診療に携わってきました。そして現在は、地域医療の最前線である小森こどもクリニックの院長として、年間2万人ほどのお子さんやご家族と真剣に向き合っています。
その数えきれないほどの出会いの中で、ご家族が直面する困難の根底には、共通するパターンがあることに気づきました。それは、目の前の問題に追われるあまり、人生という、より大きな視点を見失ってしまうことです。
その探求の先に、私が最も大切にしている医療哲学『全人格的アプローチ』があります。
人生を豊かにする「4つの営み」:私のアプローチの核心
「全人格的アプローチ」とは、単なる治療法ではありません。それは、私たちが本来持っている、人生を豊かにするための4つの営みに光を当てる、一つの考え方です。
- 健やかに「生きる」:すべての土台となる、心と体の生命力。
- 本質を「学ぶ」:物事の「なぜ」を探求し、知性で不安を乗り越える力。
- 愛し、育む:家族や仲間と関わり、信頼と安心の関係性を育む営み。
- 夢を描く:未来への希望を持ち、ワクワクする目標に向かって成長していく意志。
この4つの営みがバランスを取り戻した時、問題は自ずと解決の方向へ向かいます。
実際の診療で、この考え方がどのように活きるのか。あるご家族の「物語」をお話しさせてください。
4つの営みが「不安」を「希望」に変えた、あるご家族の物語
先日、保育園に入ってから月に何度も熱を出すという2歳のCちゃんが、疲れ切った表情のお母さんと一緒に来院されました。
【1. 健やかに「生きる」】
まず、Cちゃんが「健やかに生きる」ための土台が、繰り返す発熱で揺らいでいました。診断名は「急性上気道炎」。医学的には重症ではないものの、健やかな日常が送れていないことは明らかでした。
【2. 本質を「学ぶ」】
そこで私たちは、「本質を学ぶ」ことから始めました。私はお母さんに、「これはCちゃんが弱いからではなく、集団生活で新しいウイルスにたくさん出会い、たくましい免疫を今まさに作っている最中です。この熱は、体が未来のために『学んでいる』証拠なんですよ」と、状況の背景を説明しました。
【3. 愛し、育む】
しかし、本当の問題は、この状況が「愛し、育む」という営みを蝕んでいたことでした。お母さんは「夜も看病で眠れず、仕事を何度も休む焦りから、子どもに優しくなれない時があるんです」と打ち明けてくれました。心身の疲労が、一番大切なはずの親子関係に影を落としていたのです。
【4. 夢を描く】
最後に、私たちは「夢を描く」作業をしました。お母さんの本当の願いは、単に「熱を出さないこと」ではありませんでした。「この子が友達と元気に笑い、安心して保育園に通う未来。そして、私自身も心に余裕を持って、笑顔で子育てに向き合える毎日」。その希望に満ちた光景こそが、ご家族が本当に描きたい「夢」でした。
この「共通の夢」が描けた時、私たちの「処方箋」は、全く新しいものになりました。
私の役割は、薬で症状をゼロにすることではなく、「今は免疫を育む大切な時期です。数ヶ月後には必ず体は強くなります」という見通しを共有し、ご家族が安心して「愛し、育む」営みに集中できるよう、環境を整えることに変わったのです。
このアプローチは、すべての悩みに通じる
このCちゃんの物語は、特別な例ではありません。
この4つの営みというフレームワークは、喘息やアトピーのような慢性疾患、外科的な病気や術後の状態に至るまで、あらゆる医学的なケースに共通する、私の医療の根幹です。
強いては、特定の病気にとどまらず、「どのように人生や子育てをしていったらよいか」という、より総合的な悩みに直面したときでさえ、進むべき道を照らし出してくれる普遍的な考え方なのです。
哲学医として、私が本当に目指すこと
私が医師として目指しているのは、診断を下し、薬を処方するだけの医療ではありません。
まず、ご家族が直面している状況の「なぜ」を解き明かし、心から「腑に落ちて」いただくこと。人は、希望が見えれば前向きになれるのです。
そして、ご家族が本当に望む未来像を「共通のゴール(夢)」として設定します。
ゴールが決まれば、あとはそこに向かって、私が「伴走」します。時に励まし、時に軌道修正しながら、ご家族の生活が美しいハーモニーを奏でるよう「伴奏」する。
それこそが、私の医療の原点であり、誇りです。
あなたの、そしてお子さんの物語を、ぜひ私に聴かせてください。
LifeCrescendo 哲学医 小森 広嗣
(小児科医・小児外科専門医)