💡 この記事の活用について ここでは、当院の栄養外来で、多くのご家族と一緒に実践し、効果を確認してきた「飲み方の工夫」や「食事の知恵」の一部をご紹介します。
【必ずお読みください】 この情報は、医師の診察を受け、指導下にある患者様へのサポートとして提供しています。 お子様の体質や現在の治療状況によっては、適さない方法も含まれます。初めての方は自己判断せず、必ず医師の診察・指示を受けてから実践してください。
毎日のお食事作り、本当にお疲れ様です。 当院の栄養外来に通われているご家族から、「薬を飲んでいるけれど、なかなかスッキリ治らない」「なんとなく元気がなくて心配」というお声をよく耳にします。
実は、その不調の背景には「食べているのに栄養不足(質的栄養失調)」という問題が隠れていることが少なくありません。
1. よくある誤解:「ご飯を食べていれば大丈夫」?
最初に、とても大切な「誤解」を解いておきたいと思います。 「パンやご飯(炭水化物)をしっかり食べていれば、体は作られる」と思っていませんか?
実は、これは大きな間違いです。
炭水化物は「燃費が悪い」ガソリン
車で例えるなら、パンやご飯などの炭水化物は「ガソリン(エネルギー)」です。 ガソリンを入れれば車は走りますが、ガソリン自体がタイヤやエンジン(車のパーツ)になることはありませんよね。
しかも、炭水化物は「瞬発力はあるけれど、すぐに切れてしまう(燃費が悪い)」エネルギーなんです。 ご飯やパンばかり食べていると、血糖値が急激に上がって、すぐに下がります。すると、脳はすぐに「ガス欠だ!」と勘違いして、イライラしたり、眠くなったり、また甘いものが欲しくなったりします。
本来のメインエンジンは「脂肪」
実は、私たちの体にとって、長く安定して燃え続けるメインのガソリンは「脂肪」です。 炭水化物はあくまで「加速装置(ターボ)」のようなもの。
特に成長盛りのお子さんは、毎日ものすごいスピードで「体の工事」をしています。 材料(タンパク質)が足りないまま、燃費の悪いエネルギー(炭水化物)ばかり入れてしまうと、どうなるでしょうか?
- 体は大きくならない(材料不足)
- 血糖値が乱れてイライラする(エネルギー切れ)
- 疲れやすくなる(エンジンの不調)
丈夫な体と心を作るためには、
- タンパク質(車体・パーツ)をしっかり作る
- 脂肪(メイン燃料)でエンジンを安定して回す
- 炭水化物(加速燃料)を適度に使う
このバランスがとても大切です。 だからこそ、まずは土台となるタンパク質の継続的な摂取がどうしても必要なのです。
2. なぜ「タンパク質」が一番大事なのか?
タンパク質(Protein)の語源は、ギリシャ語の「プロテイオス(Proteios)」で、「第一となるもの」「最も重要なもの」という意味があります。 単に筋肉を作るだけでなく、私たちが生きていくためのあらゆる活動を支える「多機能な材料」だからです。
大きく分けて4つの役割があります。
① 体の「器」をつくる(構造・組織)
タンパク質は、体の目に見える部分から細胞一つひとつまでを構成する「建材」です。
- 役割: 筋肉、皮膚、髪、爪だけでなく、骨の土台や血管、細胞の膜まで作ります。
- 不足すると: 肌荒れ、骨がもろくなる、傷の治りが遅くなるなどの影響が出ます。
② 体の「調子」を整える(代謝・調節)
食べたものをエネルギーに変えたり、体のバランスを保ったりする「司令塔」の役割です。
- 役割: 酵素(消化や代謝を助ける)やホルモン(血糖値や成長を制御する)の材料になります。
- 不足すると: 疲れやすくなる、成長が滞る、ホルモンバランスが崩れる原因になります。
③ 必要なものを「運ぶ」(輸送)
血液に乗って、酸素や栄養を全身に届ける「トラック」のような役割です。
- 役割: ヘモグロビン(酸素を運ぶ)やアルブミン(栄養を運ぶ)として働きます。
- 不足すると: 貧血気味になったり、栄養を摂っても末端まで届かなくなったりします。
④ 外敵から「守る」(免疫)
ウイルスや細菌と戦う「盾」や「武器」の役割です。
- 役割: 抗体(免疫グロブリン)の材料となり、免疫力を維持します。
- 不足すると: 風邪を引きやすくなる、感染症が長引くといったことが起こります。
3. メンタルも「タンパク質」でできている
特に強調したいのが、「心」との関係です。 「やる気が出ない」「イライラする」「朝起きられない」……。これらは性格の問題ではなく、栄養不足のサインかもしれません。
- やる気を出す「ドーパミン」
- 心を安定させる「セロトニン」
- 眠りを誘う「メラトニン」
これら脳内の神経伝達物質の材料も、すべてタンパク質です。 お肉やお魚が足りていないと、心の安定剤を自前で作れなくなってしまうのです。
4. まずは「腸」を整えることから
ただし、ここで一つ大切な注意点があります。 「よし、今日からお肉をたくさん食べさせよう!」と急ぐのは禁物です。
なぜなら、タンパク質を消化・吸収するための「胃腸の粘膜」もまた、タンパク質でできているからです。 タンパク質不足のお子さんは、胃腸の壁も薄く弱くなっていることが多く、いきなり高タンパクな食事をすると消化不良(お腹の張り、便秘、下痢など)を起こしてしまいます。
「急がば回れ」のステップ:
- 消化力を守る: よく噛むこと、消化酵素(大根おろしやサプリ)を活用すること。
- 少しずつ増やす: お腹の調子を見ながら、徐々に量を増やしていくこと。
5. 目指したい量は「体重 × 1.5〜2g」
成長期のお子さんや、体質改善を目指す場合、一般的な推奨量よりも多めのタンパク質が必要です。
理想の目標: 体重1kgあたり 1.5g〜2.0g
例:体重30kgのお子さんの場合
- 30kg × 1.5g = 45g
- 30kg × 2.0g = 60g
「お肉の重さ ≠ タンパク質の量」を知ろう
「お肉を60g食べればいいの?」と思われがちですが、違います。 食材に含まれるタンパク質量は、重さの約 1/5(20%) 程度です。
- お肉 100g → タンパク質 約20g
- 卵 1個 → タンパク質 約6.5g
- 豆腐 1丁(300g) → タンパク質 約20g
つまり、タンパク質60gを摂るには、お肉なら約300g(ステーキ3枚分!)も必要になります。これを食事だけで摂るのは大変ですよね。
6. 実践!「手のひら」メソッド + ちょい足し
そこで役立つのが、「手のひら1枚分」という目安です。
基本:「毎食、手のひら1枚分」
お子さんの「片手の手のひら(指を含まない部分)」の大きさ・厚さのお肉やお魚が、その子にとっての「1食分の目安(タンパク質 約20g相当)」です。 体が大きくなれば手も大きくなるので、成長に合わせた良い指標になります。
応用:「ちょい足し」で稼ぐ
3食の食事だけでは足りない分は、補食(おやつ)やトッピングで補いましょう。
- 朝: 納豆ご飯にする(+7g)、ヨーグルトを足す(+4g)
- おやつ: おにぎりの代わりに「ゆで卵」(+6.5g)や「チーズ」(+3g)
- 汁物: お味噌汁に卵や豆腐を入れる、豆乳スープにする
7. よくある質問 (Q&A)
Q. プロテインを飲ませてもいいですか?
A. はい、食事で足りない分を補うのに有効です。添加物の少ない良質なものを選んであげてください。また、胃腸が弱い子はプロテインでもお腹が張ることがあるので、少量(スプーン1杯)から始めて様子を見てあげましょう。
Q. 卵アレルギーがあります。どうすればいいですか?
A. 無理に卵を食べる必要はありません。豚肉、鶏肉、魚、大豆製品など、他の食材をローテーションして摂りましょう。アレルギーがある場合は腸の炎症も考慮する必要があるため、主治医と相談しながら進めていきましょう。
Q. 朝は食欲がなくて食べられません。
A. 無理に固形物を詰め込まなくても大丈夫です。具なしの「ボーンブロススープ(骨だしスープ)」や、温かい豆乳スープなど、液体から栄養を摂るのも立派な食事です。
「食」は一番の応援歌
治療や体質改善は、一朝一夕にはいきません。 でも、今日食べたものが、3ヶ月後、半年後のお子さんの体と心を作ります。
「勉強しなさい」「早く寝なさい」と声をかける代わりに、そっと具沢山の卵焼きを出してみる。 そんな言葉にならない「食の応援」が、お子さんの内側からじわじわと力を湧かせてくれるはずです。
焦らず、できることから「ちりつも(塵も積もれば山となる)」でいきましょう。 私たちも全力でサポートします。
この記事の執筆・監修者
小森こどもクリニック 院長 小森 広嗣(こもり こうじ)
慶應義塾大学医学部卒。都立小児総合医療センター外科医長などを経て小森こどもクリニックを開院。 小児外科専門医として数多くのおなか(消化管)の手術や治療に携わり、「こどものお腹のスペシャリスト」として消化管の構造と機能に精通する。
自身や家族の不調が栄養療法で改善した手応えから、「西洋医学だけでは届かない不調」の解決策として「栄養」の重要性を確信。 「吸収の場である腸」と「体の材料となる栄養」の両面から、標準治療と分子栄養学を柔軟に組み合わせ、その子の体の土台を根本から整える「統合的な医療」を実践している。 日本小児外科学会認定専門医・指導医、医学博士。
栄養カウンセラー・マネージャー 小森 千明(こもり ちあき)
小森こどもクリニック 統括マネージャー / チーフ栄養カウンセラー。 元・特別支援学校教諭として培った「発達・教育」の専門性と、分子栄養学の知見を融合。自身の家族の不調を栄養療法で改善した経験を持つ。 院長と連携し、難解な栄養学の知見を「分かりやすい言葉」で噛み砕き、忙しい毎日でも無理なく実践できる「具体的な方法」を提案。3児の母としての共感力をベースに、親子の心と体の両面から確実な体質改善へと導くライフコーディネーターであり、当院の栄養療法の要(かなめ)。
