なぜ、タスク管理だけでは燃え尽きるのか?――人格を磨く『ハート』と仕事を制する『タスク』を両立させる、哲学医のハイブリッド仕事術

あなたのTo-Doリストは、人生のコンパスと繋がっているか?

「タスク管理」「タイムマネジメント」「仕事の効率化」…

書店やWebには、生産性を高めるための魅力的な言葉が溢れています。私たちは、まるで終わりのないタスクの洪水の中で、少しでも速く、少しでも多くを処理するための、最新の乗り物(ツール)や航海術(テクニック)を探し求めているかのようです。

しかし、ここで、一度立ち止まって、本質的な問いを立ててみる必要があります。

その乗り物は、一体どこへ向かっているのでしょうか?

私自身、一人の医師から、クリニックの経営者という立場になった時、その問いに正面から向き合わざるを得ませんでした。目の前の診療という業務に加え、経営、運営、採用、そして数々の会議…。気づけば、抱えるプロジェクトの数は50を超え、多い時には100に迫るほどの奔流となりました。

この圧倒的な物量を前に、単なるタスク処理の技術だけを追い求めていたら、私は、きっと、自分を見失い、燃え尽きていたことでしょう。

これは、かつての私のように、多くの役割と責任の中で、誠実に生きようともがく、あなたに送る「人生の処方箋」です。溢れるタスクに追われながらも、心を失わず、自分らしい航海を続けるための、思考の設計図を分かち合いたいと思います。

二つの、対立するようで不可分な柱

私が試行錯誤の末にたどり着いた結論。それは、仕事も、そして人生も、二つの異なる、しかし、深く結びついた要素によって成り立っている、というシンプルな真実でした。

一つは、「人格」という名の、内なるコンパスです。

これは、スティーブン・R・コヴィー博士の言う『7つの習慣®︎』の根幹をなす、「原則中心」の生き方そのものです。

「自分は何のために存在するのか」(ミッション)

「どのような人間でありたいのか」(ビジョン)

「人生で何を大切にしたいのか」(価値観)

こうした、自分の存在の「核」を磨き続けること。それは、手間と時間を省略できない、まさしく「農場の法則」の実践です。日々の実践会や内省を通じて、人格という土壌を地道に耕し続ける。私たちは、これを『ハートコンパス』と呼んでいます。

そして、もう一つが、「仕事術」という名の、外的な地図と乗り物です。

どれほど崇高な理念があっても、それを実現するための具体的な手段がなければ、それは「絵に描いた餅」に終わってしまいます。

特に、現代の情報化社会においては、無数のタスク、予定、プロジェクトが、荒波のように押し寄せてきます。この波を乗りこなすためには、デジタルツールを駆使した、徹底的に合理的な仕組みが不可欠です。私たちは、これを『タスクコンパス』と呼んでいます。

なぜ、片翼だけでは、決して飛べないのか

問題は、多くの人が、この二つを全くの別物として捉えていることです。

『タスクコンパス』だけを追い求めれば、どうなるか。

あなたは、非常に効率的な「タスク処理マシン」にはなれるかもしれません。しかし、その行動の一つひとつが、自分の人生のミッションとどう繋がっているのかを見失い、やがて、「何のためにこんなに頑張っているんだろう…」という、深い空虚感と燃え尽きに襲われるでしょう。

逆に、『ハートコンパス』だけを磨いていれば、どうなるか。

あなたは、高い理想と志を持つ、立派な人格者かもしれません。しかし、日々の業務の洪水に押し流され、「やるべきこと」に追われるばかりで、本当に「やりたいこと」へ向かう時間を、一向に作り出すことができないでしょう。

そう。片翼だけでは、鳥が決して空を飛べないように、私たちもまた、人生という大空へ、力強く羽ばたくことはできないのです。

結論:二つのコンパスを統合する『ハイブリッド仕事術』

私が提唱したい『ハイブリッド仕事術』とは、この二つのコンパスを、意図的に、そしてシステムとして統合するアプローチです。私たちがブランドの核とする「全人格的アプローチ」を、働き方において実践する試みでもあります。

『ハートコンパス』で、人生の「目的地(Why)」を定め、
『タスクコンパス』で、そこへ至る「道のり(How)」を、着実に進める。

例えば、私の生活は、「小児科医」「経営者」「父・夫」「7つの習慣実践会」「ブロガー」「学び続ける個人」といった、複数の役割で構成されています。

この一つひとつの役割が、私の人生という大きな物語において、どのような意味を持つのか(ハート)。そして、その役割を全うするために、今日、今週、何をすべきか(タスク)。

この二つを、デジタルツール上で常に連携させ、可視化する。
『7つの習慣』の「一週間コンパス」の叡智を、現代のテクノロジーで実践する、と言い換えてもいいかもしれません。

これにより初めて、私たちは、溢れる情報とタスクの荒波の中で、羅針盤を見失うことなく、複数の役割をバランスさせながら、自分らしい人生の物語を、一歩一歩、編み上げていくことができるのです。

【哲学医の人生の処方箋】

もし、あなたが今、日々の忙しさに追われ、自分を見失いかけていると感じるなら。
あるいは、高い理想と、目の前の現実とのギャップに、無力感を覚えているのなら。

どうか、思い出してください。
大切なのは、効率化の先にある「目的」です。

1.まず、あなたの『ハートコンパス』を定義せよ。

今週、あなたが果たしたい役割は何か? その役割における、最も大切な目標は何か? 壮大なミッションステートメントは不要です。まずは、この一週間の「北極星」を、あなた自身の言葉で、静かに定める時間を持ってください。

2.次に、行動を『タスクコンパス』に落とし込め。

その目標を達成するために必要な、具体的な行動(タスク)は何か? それを、信頼できるデジタルツールに、全て書き出してください。頭の中から追い出すことで、心と思考に、大きな余白が生まれます。

3.二つのコンパスを、常に見比べよ。

そして最も重要なのが、日々の終わりに、あるいは週の終わりに、「今日のタスクは、自分のコンパスが指す方向に、ちゃんと向かっていたか?」と、振り返る習慣です。この小さな自己対話こそが、あなたの航路を修正し、人格を磨き、人生の質を劇的に高めるのです。

効率化は、それ自体が目的ではありません。
自らが信じる人生を、全人格的に生きるための、力強い翼です。

あなたも、ハイブリッド仕事術という両翼を手に入れ、自分だけの物語を、豊かに奏でる『旅人』になりませんか?

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哲学医

哲学医の小森です。メスを哲学に持ち替えた小児外科医として、物事の「なぜ」を深く問い、人生の再生に向けた「思考の設計図」を描いています。挫折という「ヒビ割れ」を、その人だけの輝きに変える「金継ぎ」の哲学を探求しています。

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